【はじめに】「位牌」と「お墓」、それに「納骨堂」… 全部必要なの?
「立派なお墓を建てた(または納骨堂を契約した)のに、家の仏壇に位牌も本当に必要なの?」
「ご先祖様を供養したいけれど、色々あって混乱してしまう…」
「家のスペースを考えると、全部用意するのは難しい…」
仏事について考え始めると、こうした根本的な疑問に突き当たり、不安になってしまう方は非常に多いです。
スギこんにちは。「仏具の教科書」のスギです。
16年以上、仏具店員として多くの方のご相談に乗ってきましたが、この疑問は最も多くいただくものの一つです。
ご安心ください。その3つは、似ているようで役割が全く違います。
この記事では、その「本当の役割」の違いをスッキリと解説します。読み終える頃には、あなたの不安は「なるほど!」という納得に変わり、ご自身とご家族にとって最適な「かたち」が何なのか、自信を持って判断できるようになっています。
【結論】役割が全く違います:「心の鏡」と「公の家」

なぜ、この3つが存在するのか。
結論から申し上げますと、その役割は、以下のように明確に分かれています。
- 位牌(いはい)
→ 「心の鏡」つまり、故人を『想う気持ちを形』に表した仏具です。 - お墓(おはか) / 納骨堂(のうこつどう)
→ 「公の家」つまり、先祖との物理的な繋がりの『証』です。
お仏壇に安置する「位牌」は、私たちの「心(気持ち)」を表したもの。
お寺や霊園にある「お墓」や「納骨堂」は、故人の「ご遺骨」という物理的な繋がりの場所。
この「心の鏡」と「公の家」という大きな違いを、まずは以下の比較表でご確認ください。
| 位牌 (Ihai) | お墓 / 納骨堂 (Grave / Ossuary) | |
|---|---|---|
| 役割 | 心の鏡(想いをかたちにしたもの) | 公の家(物理的な繋がりの証) |
| 対象 | 戒名(故人の象徴・心) | お骨(身体・ルーツの象徴) |
| 場所 | 家の中(お仏壇など) | 外(霊園・お寺など) |
| 頻度 | 毎日 | 年に数回(お盆・お彼岸など) |
この違いさえ分かれば、もう混乱することはありません。
それぞれの「役割」を詳しく解説します。
それぞれの「役割」を詳しく解説
①「位牌」の役割(心の鏡) – あなた自身の故人を想う気持ちを「かたち」にしたもの
位牌は、故人の戒名(法名)や没年月日を記した仏具です。
なぜ、これが必要なのでしょうか。

それは、私たち人間は、目に見えない故人を想い続けたり、感謝を伝えたりするのが、少し苦手な生き物だからです。
だからこそ、戒名を記した「位牌」という『かたち』に、私たちの『気持ち(感謝や偲ぶ心)』を託すのです。
位牌は、家のお仏壇という、私たちの一番身近な場所に安置されます。
位牌は、私が手を合わせる気持ち、故人への想いを一番に表すことのできる、最も大切な役割をもつ仏具です。

▼「開眼供養」で、感謝の「かたち」に
新しく作った位牌は、開眼供養(かいげんくよう)という儀式を経て、初めてその役割を持ちます。
この儀式は、位牌に何か霊的な魂を「入れる」ものではありません。
お寺様のお導きのもと、「本日より、この位牌を、故人への感謝と敬いの心を託す『かたち』として、大切にお祀りします」と宣言するための、生きている私たちのための、大切な出発の儀式なのです。
[⇒「開眼供養(魂入れ)」の詳しい意味と準備はこちら]

▼「心の鏡」となる、本位牌の選び方はこちら
「位牌」の重要性をご理解いただけたところで、具体的な種類や選び方が気になる方もいらっしゃると思います。以下の記事で、その全てを解説しています。

- [⇒【本位牌の完全ガイド】種類・選び方から作り方まで仏具店員が全解説]
- [⇒【モダン位牌】リビングに合うおしゃれなデザイン10選|仏具店員が厳選]
- [⇒【職人が語る】江戸草葉の位牌レビュー(国産・本物)]
②「お墓」「納骨堂」の役割(公の家) – 故人のお骨が還る場所
一方、お墓と納骨堂は、火葬後の「ご遺骨」を、敬意をもって安置するための場所です。ご遺骨という故人の「身体」が還る場所であり、お盆やお彼岸、命日などに、私たちが「お参りに行く」場所となります。


では、「お墓」と「納骨堂」は何が違うのでしょうか。
- お墓(おはか)
伝統的な、「土地」と「墓石」でご遺骨を安置する形です。「〇〇家の墓」として、ご家族代々で受け継いでいくことを前提としています。 - 納骨堂(のうこつどう)
現代的な、「建物の中」でご遺骨を安置する形です。「墓地を持つのが難しい」「天候に左右されずお参りしたい」といった、現代のライフスタイルに合わせて需要が急増しています。ロッカー式、仏壇式、自動搬送式など、様々なタイプがあります。
どちらも「ご遺骨を安置する場所」という役割は同じです。
【プロの視点】「仏具の教科書」スギが、あなたの疑問に答えます
役割の違いは分かりました。でも、スギさん、結局…

Q1. 「じゃあ、『位牌』と『お墓/納骨堂』、両方とも必要なの?」
A1. はい両方とも必要です。役割が違うため、両方お持ちになるのが、最も丁寧で、ご自身の心も落ち着く形です。
「位牌」が家での日常的なお参りの場(心の鏡)だとすれば、「お墓/納骨堂」は、お盆やお彼岸にご遺骨にご挨拶しに行く特別な「公の家」です。
どちらか片方だけ、というのは、例えるなら「家の表札はあるけれど、家そのものがない」あるいは「家はあるけれど、表札がない」というような、少しアンバランスな状態とも言えます。
Q2. 「『お墓(納骨堂)』だけあれば、位牌はいらない?」
A2. そもそも役割が違うので、両方必要です。
お墓や納骨堂は、故人や先祖の納骨場所です。それは「外」にあります。
雨の日も雪の日も、あるいは夜中にふと、故人を想い、手を合わせる気持ちが湧き上がってきた時、その気持ちを映し出す「心の鏡」が家にないと、どこに向かえば良いでしょうか。
故人を想い、手を合わせる気持ちがあるのであれば「位牌」を家に置くのは、私は必然だと考えます。
Q3. 「両方を持つのが難しい場合はどうすれば?」
A3. 役割を理解した上で、ご自身に合った形を選べば大丈夫です。
- 「お墓(納骨堂)はあるが、仏壇・位牌がない」場合
→ 日々の暮らしの中で手を合わせる「心の鏡」がありません。お仏壇がなくても、写真などを飾り、小さなお花とお線香を供えるなど、ご自身で祈りの空間を作るのも一つの素敵な形です。 - 「位牌はあるが、お墓がない」場合
→ 日々の感謝を映す「心の鏡」は確保されています。納骨堂などが、親族が集まる「公の家」の役割を果たしてくれます。これは現代では非常に増えている形です。
Q4. 「例外(浄土真宗など)は?」
A4. はい、非常に重要なポイントです。
浄土真宗本願寺派(お西)真宗大谷派(お東)では、教えにより、「位牌」を用いません。亡くなった方はすぐに阿弥陀如来のお力で仏様になるため「供養」という概念がなく、魂の拠り所としての位牌は必要ないのです。
ただし、「過去帳(かこちょう)」や「法名軸(ほうみょうじく)」という形で、故人の法名などを記し、先祖が分かるようにしておきます。
呼び名や「かたち」は違いますが、「家のお仏壇で、手を合わせる対象(心の鏡や記録)を大切にする」という本質は、他の宗派と何ら変わることはありません。
[⇒浄土真宗で位牌が不要な理由と、「過去帳」についてはこちら]
【まとめ】「心」と「ご遺骨」、それぞれの拠り所を大切に

位牌、納骨堂、お墓の違い、スッキリしていただけたでしょうか。
- 位牌 → 【家】に置く、【心の鏡】(想いを形に表した仏具)
- お墓 / 納骨堂 → 【外】にある、【ご遺骨】の安置場所(物理的繋がりの「証」)
「どれか一つでいい」と悩むのではなく、それぞれが持つ大切な役割を理解すること。
それが、故人への敬意となり、何より、残された私たち自身の心の平穏に繋がります。
この記事が、あなたの「気持ちをかたちに」するお手伝いになれば幸いです。

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