【はじめに】位牌の見映えは「文字」で決まります
位牌は、文字を入れて初めて完成します。どんなに美しい位牌を選んでも、そこに刻まれる文字の品質が低ければ、全てが台無しになってしまうからです。
文字入れは、故人がこの世に生きていたという証を記す、最も重要な工程です。そして、一度彫ったら、やり直しはできません。

こんにちは。「仏具の教科書」のスギです。
位牌の文字を彫る職人として, この工程には誰よりも強いこだわりを持っています。
この記事では, あなたが文字入れで絶対に失敗しないために, 依頼する前に「何を」確認し, 「どう」伝えれば良いのか, その全注意点をプロの視点から徹底解説します。
チェックリスト1:【情報準備編】仏具店に行く前に確認すべき5つのこと


まず, 依頼に必要な情報を完璧に準備しましょう。
- [ ] 白木位牌の写真は撮りましたか? (表・裏)
→ 戒名, 没年月日, 俗名, 行年など, 全ての文字情報の元になります。 - [ ] 宗派は明確ですか?
→ 天台宗や真言宗など, 宗派によって戒名の上に入れる梵字(ぼんじ)の有無や種類が決まります。日蓮宗は、戒名の上に「妙法」の文字を入れます。ただし、お寺様により違う場合もあるので、事前に確認すると間違いありません。 - [ ] 戒名の文字に, 旧字体や特殊な漢字は含まれていませんか?
→ 例えば「斉」「斎」「齋」や,「龍」「竜」など。間違いが起こりやすい文字は, 特に注意して伝える必要があります。 - [ ] 没年月日の表記は確認しましたか? (和暦 or 西暦)
→ どちらでも間違いではありませんが, 一般的には和暦がほとんどです。ご先祖様の位牌がある場合は, そちらの表記に合わせると統一感が出ます。 - [ ] 行年・享年と年齢
→ 行年(ぎょうねん)・享年(きょうねん): どちらも亡くなった時の年齢を表す言葉です。伝統的には数え年で記載することが多いですが、近年は満年齢で記載することも増えています。実務上、この二つの言葉に厳密な意味の違いを設けることは少なく、ほぼ同義と考えて問題ありません。白木位牌に書かれている言葉と年齢を、そのままお伝えするのが最も確実です。
チェックリスト2:【依頼・校正編】お店で必ず確認すべき4つのこと


次に, お店で注文する際の重要な確認事項です。
- [ ] 文字の入れ方は「彫り文字」を選びましたか?
→ 【プロの視点】私が日々扱っている経験から断言しますが, 機械彫りの「彫り文字」が圧倒的におすすめです。手書きの「書き文字」も温かみがありますが, 経年で文字が薄れたり, 書き手によって品質に差が出たりします。現代の高品質な彫刻機で彫られた文字は, 筆で書いたような美しさと, 色落ちしても再度色入れが可能という優れた耐久性を両立しています。 - [ ] 文字の色は選びましたか? (金 or 白など)
→ 一般的には表面が金文字, 裏面が白文字です。位牌本体の表面が金箔仕上げの「総金位牌」は、表面が映えるように群青色(紺色)の文字にすることもあります。特に決まりはないので, 好みで選んで問題ありません。 - [ ] レイアウトの希望は伝えましたか?
→ 例えば, 夫婦の戒名を並べる「夫婦位牌」の場合, 右側に夫, 左側に妻を配置するのが一般的です。何か特別な希望があれば, この段階で伝えましょう。 - ** [ ] 【最重要】その場で「校正紙」を最終確認する**
→ 注文時、必ず「注文確認」をし誤字、脱字がないか再確認する。注文した文字が、そのまま位牌に刻まれます。
誤字脱字はないか、旧字体は正しいか、ご自身の目で、そして可能であればご家族など、複数人の目でその場で最終確認してください。
あなたが「これでお願いします」と承認した後は、もう修正はできません。ここが、最後の確認の場です。
【プロの視点】なぜ, ここまで文字にこだわるのか


私が日々, 0.1mm単位で文字のバランスを調整し, 刃のメンテナンスを欠かさないのは, 文字入れが単なる「作業」ではないからです。
それは、施主(注文者)であるあなたの「故人を敬う気持ち」を、位牌という木地に刻み込む、まさに「気持ちをかたちにする」神聖な儀式だと考えています。
美しく、力強く彫り上げられた文字は、位牌という「道具」に、作り手の想いの深さを与えます。それを見る私たちの心は、その文字の美しさと力強さを通して、故人への敬虔な気持ちを、より自然に思い起こすことができるのです。
だからこそ, 私はこの工程に一切の妥協をしません。
【まとめ】
位牌の文字入れは, 故人への感謝の「かたち」を完成させる, 最後の仕上げです。
- 準備を万全にすること
- お店でしっかりと確認すること
この2つを徹底すれば, 失敗することは絶対にありません。
この記事のチェックリストが, あなたの想いを最高の「かたち」にするための, 信頼できるパートナーとなれば幸いです。
「位牌そのものの選び方も, もう一度復習したい」
そう思われた方は, こちらの「完全ガイド」で, 位牌に関する全ての知識を網羅的に解説しています。
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