【はじめに】「魂入れ」って、なんだか少し怖い…?
「魂入れ」「魂抜き」…
新しく位牌を準備したり、古い位牌を整理したりする際に、必ず耳にする言葉です。
しかし、その言葉の響きから、「本当に魂を出し入れするの?」「何か怖いことが起きたりしない?」と、漠然とした不安を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
こんにちは。「仏具の教科書」のスギです。
長年、仏具店でお客様と接する中で、この「魂入れ」という言葉が、多くの方に誤解されていると実感してきました。
この記事では、その言葉の本当の意味と歴史的な背景、そして「なぜ、その儀式を行うのか」という本質について、プロの視点から徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたの不安は解消され、故人を敬うための儀式に、晴れやかな気持ちで向き合えるようになっているはずです。
【本質】「魂入れ」という言葉の正体と、本当の意味
結論から申し上げますと、位牌に故人の魂(霊)を物理的に出し入れする、というようなことは一切ありません。
では、なぜ「魂入れ」という言葉が広く使われているのでしょうか。
それは、「目に見えないものに対して、私たちは手を合わせ続けるのが難しいから」です。
昔のお坊様たちは、人々が故人を偲び、手を合わせるための「心の拠り所」として位牌があることを、分かりやすく伝えるための方便(ほうべん)として、あえて「魂」という言葉を使いました。その言葉が、一般の方に伝わりやすかったため、現代にまで残っているのです。
正式には、儀式のことを以下のように呼びます。
- 魂入れ → 開眼供養(かいげんくよう)
- 魂抜き → 閉眼供養(へいがんくよう)
「開眼」とは、仏様の智慧の眼を開く、という意味です。
つまり、これらの儀式の本質は、霊魂の出し入れではなく、それに向き合う私たちの心のあり方を変えるための、大切な節目なのです。
開眼供養(魂入れ)は、なぜ、いつ行うのか?
開眼供養とは、新しく作られた位牌を、単なる「モノ(木の札)」から、私たちの祈りや感謝を届ける対象である「心の拠り所」へと、意味合いを変えるための、出発の儀式です。
【主なタイミング】
- 四十九日法要の際: 白木位牌から本位牌へと、故人の依り代を引き継ぐ、最も一般的なタイミングです。
- 新しい位牌を作り直した際: 古くなった位牌から、新しい位牌へと役割を引き継ぐ時に行います。
この儀式を通して、私たちは「今日からこの位牌を、故人を偲ぶ大切な対象としてお祀りします」と、ご本尊様の前で宣言するのです。
閉眼供養(魂抜き)は、なぜ、いつ行うのか?
閉眼供養は、開眼供養とは逆に、長年「心の拠り所」としてきた位牌に、感謝を伝えてその役割を終えていただくための、けじめの儀式です。
【主なタイミング】
- 古い位牌をお焚き上げする前: 感謝を込めて、礼拝の対象から「モノ(木の札)」へと戻っていただきます。
- 複数の位牌を繰出位牌や過去帳にまとめる際: それぞれの位牌の役割を終え、新しい一つの拠り所に想いを引き継ぐ時に行います。
- お仏壇を移動・処分する際: ご本尊や位牌に、一度その場所での役割を終えていただくために行います。
供養はどこに頼むべきか?お寺と仏具店の正しい役割
開眼供養・閉眼供養は、必ず菩提寺(お付き合いのあるお寺様)に依頼しましょう。
菩提寺が遠方などの場合は、信頼できる仏具店に相談すれば、お寺様への「取次(とりつぎ)」を案内してくれます。
【最重要:悪質な代行サービスに注意!偽坊主の被害に遭わないために】
なぜ、私がここまで強く「資格を持つお寺様」にこだわるのか。
それは、何を隠そう、私自身が祖母の葬儀で「偽坊主」の被害に遭った、悔しい経験があるからです。
宗派を偽り、正式な作法ではない葬儀を行ったにも関わらず、非を認めない。そんな悲しい現実に、私も直面しました。
だからこそ、私はあなたに同じ思いをしてほしくないのです。
供養の読経を行えるのは、修行を積み、資格を持つ僧侶(お寺様)だけです。「亡き人をご縁に仏法に触れ、ちゃんとした形で弔いたい」というあなたの清らかな気持ちを形にするためにも、必ず資格を持つお寺様に依頼しましょう。
費用(お布施)の考え方と相場
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
開眼供養・閉眼供養のお布施 | 1万円~5万円以上 | お寺様や地域によって異なります。 |
【プロの視点:お布施の考え方】
「お布施」は本来、金額が決まっていない施しです。それは、お寺様が私たちの見えないところでも仏法のために尽くしてくださっていることへの感謝の気持ちであり、また、収入が様々な各家庭への配慮でもあります。この背景を少し心に留めて、準備されると良いでしょう。
【まとめ】儀式は、生きている私たちのためにある
「開眼供養」や「閉眼供養」は、故人の魂を位牌に縛り付けたり、祓ったりする儀式ではありません。
それは、位牌を私たちの「心の拠り所」と定め、故人への感謝を忘れず、日々の暮らしの中で対話していくための、残された私たちのための、大切なけじめの儀式なのです。
この記事で、言葉への不安が解消され、故人を敬う儀式に、晴れやかな気持ちで向き合えるようになっていれば、これほど嬉しいことはありません。
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