【はじめに】「浄土真宗は、位牌は使いませんよ」
「親戚から『位牌はまだか』と聞かれるけれど、お寺様からは『浄土真宗は位牌は使いませんよ』と言われた…」
ご家族の宗派が浄土真宗である多くの方が、この板挟みの状況に悩みます。いったい、どちらが本当なのでしょうか?

こんにちは。「仏具の教科書」のスギです。
結論から申し上げますと、浄土真宗本願寺派(お西)と真宗大谷派(お東)では、原則として位牌を用いません。
(※この記事では、両派を合わせて解説する際、通称である「お西」「お東」という言葉を使わせていただきます)
この記事では、その「なぜなのか?」という深い理由と、位牌の代わりとなる「過去帳」と「法名軸」について、専門家の視点から徹底解説します。
1.【本質】なぜ位牌を使わない?答えは「阿弥陀如来」の理解にあり


「お西」「お東」で位牌を用いない理由は、「亡くなった方が、どこへ行くか」という教えの根幹にあります。
それは、亡くなった方は阿弥陀如来(あみだにょらい)のお力によって、亡くなると同時に、すぐに極楽浄土に往き、仏様になる(往生即成仏)と考えられているからです。
そのため、故人の魂がこの世をさまよったり、位牌に宿って供養を待ったりするという考え方そのものが存在しません。
この教えを深く理解するために、まず「阿弥陀如来」とは一体どういう存在なのか、ご説明します。
【阿弥陀如来の正体】それは「はたらき」です
最初に答えを言いますと、阿弥陀如来とは「はたらき」そのものです。
「お西」「お東」の本山からいただくご本尊(お掛軸)の裏には、「方便法身尊形(ほうべんほっしんのそんぎょう)」と書かれています。




- 方便:人々を導くための「手だて」
- 法身:色も形もない、真理そのもの
- 尊形:尊いお姿
つまり、「本来は色も形もない真理(はたらき)を、人々を導くために、あえて尊いお姿として表したもの」が、私たちが目にする阿弥陀如来像なのです。
その「はたらき」とは、一言でいうなら「母心(ははごころ)」そのものです。
私たちが赤ん坊だった頃、自分では何もできず、泣いたり熱を出したりした時、母親はいつでも無償の愛で手を差し伸べ、面倒を見てくれました。その見返りを求めない絶対的な救いの「行動」、すなわち「はたらき」こそが、阿弥陀如来の本質なのです。


私たちが今ここにいるのは、ご先祖様から連綿と続く、その「はたらき」のおかげに他なりません。
つまり、故人は亡くなると同時に、その偉大な「はたらき(母心)」の一部となって、いつでも私たちを見守ってくださっている。だから、故人を偲ぶための位牌は必要ない、というのが浄土真宗の考え方なのです。
2. 位牌の代わりとなる「過去帳」と「法名軸」の役割
位牌を用いない代わりに、「お西」「お東」では以下の二つの仏具で、故人を偲び、感謝を伝えます。
① 過去帳(かこちょう)




- これは何か?
→ ご先祖代々の法名(ほうみょう※)、俗名、没年月日、没年齢を記しておく、一家の系譜を記した帳面です。 - その役割は?
→ 「我が家から、これだけ多くの方々が、仏様となってお浄土にいらっしゃる」ということを記録し、命の繋がりと感謝の気持ちを忘れないためのものです。 - 価格の目安: 大きさや表装の素材により様々ですが、3,000円~2万円位が相場です。
※「お西」「お東」では、仏弟子となった名前を「戒名」ではなく「法名」と呼びます。
② 法名軸(ほうみょうじく)




- これは何か?
→ 故人の法名などを記した、小さな掛軸です。 - その役割は?
→ 過去帳と同様の仏具で、故人ひとり、または複数を記しておくものです。お寺様からいただいた紙をご自身で掛軸に仕立て直す「表装」が必要な場合は、仏具店や掛軸屋に相談しましょう。 - 価格の目安: 法名軸本体は、大きさ(豆代~50代)により1,500円~3万円位です。表装代は、1万円~5万円位が相場です。
3.【プロの視点】「でも、親戚が…」と言われた時の考え方


この教えを理解しても、他の宗派のご親戚から「故人がかわいそうだ」「位牌くらい作ってあげなさい」と言われ、悩む方が後を絶ちません。
もし、どうしてもご親戚のお気持ちを汲んで「かたち」として示したい場合は、まず菩提寺のご住職に、その旨を正直にご相談ください。
その上で、お寺様の許可がいただければ、位牌をお作りすることも、一概に間違いとは言えません。
その際に最も大切なのは、「位牌は、『故人を偲び、感謝するための、生きている私たちのための道具』である」と、ご自身がしっかり理解していることです。
【まとめ】
「お西」「お東」で位牌を用いないのは、「亡き人は、すでに仏様となって、いつでも私たちを見守ってくださっている」という、阿弥陀如来への絶対的な信頼から来る、非常に尊い教えの表れです。
- 故人は、すぐに仏様になる(往生即成仏)
- 感謝の記録として「過去帳」や「法名軸」を用いる
各宗派の教えを正しく理解し、きちんと形に表現してください。「気持ちをかたちに」することで、あなた自身、そしてご先祖様、家の品格も上がります。
この記事が、そのための手助けとなれば幸いです。
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